中国の「民法総則」で「民法通則」は廃止されたのか?


 中国では2017年10月1日より、「民法総則」が施行されました。この内容については、既に検討したことがありました(該当記事)。しかし、現在中国の民法総則関係で問題となっているのは、民法総則自体の内容ではなく、旧法である「民法通則」についてです。

 中国では、これまで「民法」という法律を作らず、日本でいう民法総則編に相当する「民法通則」、民法物権編に相当する「物権法」、民法債権編に相当する「契約法(中国語原文は「合同法」)」、「不法行為法(中国語原文は「侵権責任法」)」など個別の法律で、「民法的内容」を構築してきました。

 しかし、個々の「民法的な法律」には相互矛盾などが存在し、「一つの民法典にまとめるべき」との声が多く挙げられていました。そこで、中国は統一民法典の作成を目指し、ひとまず総則編に相当する「民法総則」を2017年3月15日に可決したのです

 今後、この「民法総則」の続編である、「民法物権編」、「民法債権編」なども制定され、2020年を目標に統一民法典が完成する予定となっています。

 しかし、2017年10月1日にこの民法総則が施行されたにも関わらず、中国政府は「旧法である民法通則を失効させる」旨の通知や宣言を一切出していません。このため、現在、中国の法務実務の現場は、「民法通則は失効したのか否か」を巡って大混乱が起きています

 ある中国弁護士は「新法は旧法を破るの原則により、民法通則は失効した」とインターネット上でつぶやいています。これは、新しい法律と古い法律が矛盾する場合には、新法が優先されるという原則です。確かに、この原則によれば民法通則は失効したと考えることもできるでしょう。

 しかし、中国の過去の裁判では、新法の存在を無視して旧法を適用して結論を出したことがあります。「新法は旧法を破るの原則」は、日本などの法理論であり、中国では用いられていないと考えるべきでしょう。

 旧法である民法通則と、新法である民法総則には、内容が異なる点もいくつかあります(両者の違いについては、こちらの過去記事を参照)。残念ながら、旧法の適用を優先したことがある中国の過去の裁判結果などから、現在は民法通則と民法総則が併存している状態と考えた方がいいでしょう。

 民法的内容の法律群に矛盾があり、それをなくすための統一民法典の第一弾として施行された民法総則が、民法通則廃止を中国政府が言わないために、より大きな矛盾を生み出してしまったという点は何とも皮肉であり、中国法務の実務現場の苦労は絶えませんが、これが中国法の世界なのです。

 今後、いつ中国政府が民法通則失効を宣言するのか、これからも民法通則を根拠とした裁判結果が出るのか(民法総則施行後も民法通則が適用されていることを認めるのか)、注意深く見ていく必要があります。(執筆者:高橋 孝治)


高橋 孝治

高橋 孝治
http://ameblo.jp/takahashi-chinese-law/

法律諮詢師(中国政府認定法律コンサルタント)
日本文化大学卒業・学士(法学)。法政大学大学院修了・会計修士(MBA)。都内社労士事務所に勤務するも中国法の魅力にとりつかれ、勤務の傍ら放送大学大学院修了・修士(学術)研究領域:中国法。後に退職・渡中し、中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法研究の傍ら、中国法に関する執筆・講演などを行っている。特定社労士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。出演テレビ番組に「月曜から夜ふかし」、「一虎一席談(中国・香港で放送)」。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(単著・労働調査会、2015年)、『中国年鑑2016』(共著・中国研究所(編)、「治安・犯罪動向の章」担当。明石書店、2016年)ほか。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。詳しくは「高橋孝治 中国」でWEBを検索!

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