中国のVPN規制から見る今後の中国ビジネスの概形



 中国でVPN技術の提供を禁じる通知が出たというニュース(産経ニュース)が流れている。

 あくまで、「中国で」VPN技術を「提供」することを禁じているのみなので、「外国で(日本などでVPNの契約をして)」、それを中国でも「使い続けるだけ」なら問題ないとの解釈もできる。

 既に中国に現地法人がある場合、中国現地でVPN契約をすることができなくなる可能性があるため、日本側でVPN契約を締結し、技術提供を日本で受けた上で、中国で利用するなどの方法で回避ができる可能性はまだあるということである。

(仕事をする上でYoutubeやFacebookを使う必要もないのに、企業がVPNを使うのか?と思う方もいるかもしれない。しかし、中国では通常のメールも非常に遅いため、多くの企業がメールの送受信のためだけにVPNを契約している。しかし、それも中小企業の場合であり、多くの大企業の場合、独自サーバーを使うため、VPNがなくてもかなり早い回線を使っていると言われている)

 この規制について、最も影響を受けるのは中国の外で契約を締結したり技術提供を受けることができない中国以外に法人を持たない中国内資企業であろう。

 しかし、問題となるのは、これが今後「VPNの使用の一切を禁ずる」という規制にまで拡大されることである。

 中国には「言論の自由」がないため、自由な報道が認められていないという言われ方がよくされる。むろんそういう解釈もあるだろうが、筆者は中国では憲法上「知る権利(中国語では「知情権」)」に関する規定がないという点が根源にあると述べたい。

 中国憲法の構成は、日本などと違い、「政府の権限を抑えるためのもの」ではなく「市民に権利を与えるもの」となっている。そのため、中国憲法に書かれていない権利は一切中国では認められないという構成になる(日本国憲法第13条の幸福追求権のような条文も中国には存在しない)。

 つまり、中国では「世界中の情報を知る権利」がそもそも認められていないという法的構成を取っているのである。

 とすれば、以前筆者が述べたことと同じ論理で、中国では政府が容認しない情報を取得することはこれまで憲法上認められていないが、黙認されているに過ぎない状態だったとも言える。

 ならば、そこは規制を受けるようになっても憲法の許す範囲内のことということになる(もっとも、「知る権利(知情権)」については、地方の情報公開条例の中で言及されたり、中国政府の講話中で言及されたりと最近は一律に禁じられているわけではない動きを見せている)。

 この憲法解釈からは、やはり今後中国国内でVPNの使用が一切禁止されるというのは可能性のあることであり、日本企業が何らかの対策を考え始めるというのはこれから必要なことであろう(独自回線にするか、メールやネット閲覧などは制限を受けてもかまわないと割り切るか……)。

 もし中国でのVPNが全面禁止されたら、中国ビジネスをしている多くの者に混乱を与えるであろう。しかし、以前にも筆者は述べたが、最近の中国は確実に社会主義回帰傾向にある。外国人は国内に必要ない、憲法上の権利を限定するというのも社会主義国家の特徴である。

 外国人による中国ビジネスが多少混乱しても、情報統制ができた社会主義国家を取り戻すことが優先であるという意図を中国政府が持っている可能性があることもおさえておきたい。(執筆者:高橋 孝治)


高橋 孝治

高橋 孝治
http://ameblo.jp/takahashi-chinese-law/

法律諮詢師(中国政府認定法律コンサルタント)
日本文化大学卒業・学士(法学)。法政大学大学院修了・会計修士(MBA)。都内社労士事務所に勤務するも中国法の魅力にとりつかれ、勤務の傍ら放送大学大学院修了・修士(学術)研究領域:中国法。後に退職・渡中し、中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法研究の傍ら、中国法に関する執筆・講演などを行っている。特定社労士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。出演テレビ番組に「月曜から夜ふかし」、「一虎一席談(中国・香港で放送)」。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(単著・労働調査会、2015年)、『中国年鑑2016』(共著・中国研究所(編)、「治安・犯罪動向の章」担当。明石書店、2016年)ほか。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。詳しくは「高橋孝治 中国」でWEBを検索!

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