急成長の中国電子商取引―「疑う」国民性でなぜ伸びるのか


 中国における消費者向け電子商取引市場は2015年、前年比42.1%増の6,720億ドルに達し、2位の米国(3,417億ドル)の倍近くにまで拡大しました(eMarketer社の報告書による)。

 中国人が各種のショッピングサイト等を通して日本から日本製品を買ういわゆる「越境EC」も急成長しており、昨年は7,956億円(対前年比31.2%増)となりました。(経済産業省の報告書による)。

 中国人観光客によるいわゆる「爆買い」も一服か、といった報道がこのところされていますが、電子商取引のほうは、一服どころか、むしろ猛烈な成長軌道にあるのです。

 わたくしはふだん実業の世界に身を置いていますが、2003年に、それまで自分自身で経験してきた中国ビジネス、中国での暮らしから得た実感を元に、二冊の本を出しました。

 そのなかで、日本企業―中小企業をも含む―には、彼らがこれまで通り真面目で、誠実な姿勢を貫いていけば、極端とも言うべき(自国業者への)信用不安を抱える中国の消費者から、早晩かならず高く評価されるようになるであろうと書きました。

 つまり、ある意味、わたくしはここ数年で起こってきた日本製品に対する「爆買い」をその当時から予見していたのです。


「爆買い」の深層にある「不安と疑い」



 ひところ日本のマスコミでは、中国人観光客が銀座あたりのブランド・ショップや秋葉原の家電量販店などで数十万、数百万のバッグや時計等を買い、電気炊飯器やヘアードライヤーを幾つも抱えて道を急ぐといった姿が連日報道されました。

 それはたしかに、成長を続ける大国に住む人々らしかったのですが―日本人もかつては似たようなことを欧米等でしてまいりました―。

 一方で、ドラッグストアに飛び込むやいなや、目薬、胃腸薬、止痛薬、化粧品、ハンドクリーム、おむつ等々、なんで自分の家の近くで買わないの? わざわざ此処まで来てそれ買うの? と大きな声で訊きたくなるような「爆買い」を、彼らはいまに至るも続けています。

 中国人の「爆買い」の深層にあるものを、こうした購買行動が如実に物語っています。

 身体に付けるもの、口から入れるものについては、自国に溢れる「ありとあらゆる」―と、彼らは信じている―ニセモノが怖いので、信用の置けるメイド・イン・ジャパンを買おう、ということなのです。(彼らが日本企業のブランドが付いていても「中国製造」、すなわち中国国内で製造されたものであれば信じない、という姿勢を貫く背景にも、こうした根の深い「不安」があるのです)

 ひとつ、例を挙げましょう。

 中国人は子どもを非常に大切にします。「小宝宝」といって、両親どころか、その両親までがひっきりなしに登場し、(少なくとも、中産階級化した都市部の家庭であれば)王子様、お姫様のように扱われます。

 そうした「小宝宝」たちは、制度上、無償で各種の予防接種を受けることができます。けれども親たちは、祖父母たちは、お金を払ってでも輸入ワクチンで予防接種を受けさせるのです。(つまり、国家制度の非常に基本的な部分にも疑いの眼を向けているのです)

 ですから、「安心安全」で、生真面目な「ものづくり」精神がいまも発揮されているはずと信じられている日本製品には、これからも、相当の長期にわたって、中国市場が頼もしく見えて当然なのです。

 ただ、それだけでは、つまり購買力が付き、日本製品などが容易に手に入るようになったということだけでは、中国の電子商取引がこうも凄まじいペースで拡大し続けていることの説明にはなりません。なにか、決定的な「変化」が其処で起こったはずなのです。


中国人が信用するものとは?



 さきほども申しましたが、中国人が「信用していない」のは自国のモノであり、サービスであります。だから、日本製品は信じる。だから、買う。

 しかし電子商取引となると、自分で見て、買って、運ぶわけにはいきません。決済、デリバリーは他者に任せることになります。

 そうなりますと、「ありとあらゆる」ニセモノが自国市場で跋扈し、ただでさえ「騙されてなるものか」と身構える中国人消費者が、そんなに簡単に電子商取引などするものだろうかと思いたくなるわけです。

 中国人は自分で見て、買って、運ぶことができない場合、信用の置ける親戚や友人に金を渡し、買い物をお願いする、ということをしばしばいたします。日本に住んでいる中国人がたとえば「里帰り」をするとします。彼または彼女は、おそらく持ち込み手荷物で貿易会社を始められるほどの勢いでさまざまな日本製品を持ち帰ることでしょう。

 こういうことを、なかなか日本人はいたしません。日本人なら、そういう個と個の関係性より、お上が作った仕組み(制度)のほうにむしろ行くでしょう。そこが、中国人と真逆なのです。

 中国人は、有形に見えるかにみえる国家や制度よりも、むしろ無形に見えるかにみえる私的関係のほうを信用するのです。(これは、実際のところ、非常に大きな違いであって、中国人の危機管理センスの鋭さの一因はこのあたりにあるとわたくしは考えています)

急速に浸透したアプリやサービス



 ところで、わたくしは先日、東京で開催されたある展示商談会に中国人の若い友人とともに参加し、一通り仕事を終えてからカフェで歓談したのですが、その折、彼は普段使っているスマートフォンを取り出し、わたくしに、中国の携帯端末のサービスがいかに先進的であるかを誇らしげに見せてくれました。

 それは、いまや中国人と、そして中国人と日常的にコミュニケーションをとる人であればほとんど誰もが使っている「微信(WeChat)」に附帯する「銭包(ウォレット)」の機能でした。

 ここ一、二年の間に、中国では「滴滴出行」(いわば中国版Uber)、加えて本家本元のUberに代表されるタクシー配車アプリが大都市を中心にあっという間に普及しました。いまや、北京や上海でタクシーを呼ぶのにこれを使わない(使えない)のはシニア層か、よほどの「お上りさん」、あるいはタマに来る外国人ぐらいではないかと思われます。

 生活の隅々にまで、急速に入り込んできたこうしたサービスを目の当たりにし、わたくしも心中非常に驚いてはおりました。

 ところが、「微信(WeChat)」の「銭包(ウォレット)」機能は、そうした単一機能を遥かに超えて、およそ最初にスマホ所有者の銀行口座を登録さえしておけば、買い物時の決済、端末への現金チャージ、現金振込、公共料金支払、定期預金、投資性金融商品購入、タクシー配車、鉄道予約、航空券予約、ホテル予約、ネットショッピング、募金等が統一的なプラットフォームで簡単に出来てしまうのでした。(ご丁寧なことに、友人たちと外食し、支払の時にはスマホをかざし合い、即「割り勘」できるという機能まで付いています)

 中国という「信用不安社会」において、なぜこうした国民的SNSを基盤とした極めて包括的なアプリがこれほど急速に普及したのか。7月のジリジリとした日差しを浴びながら、わたくしはそのことばかり考えておりました。


「信用不安」だからこそ重みを増す「信用等級」



 わたくしの友人の話のなかで、一言が強く印象に残りました。

 彼は、「わたくしの<信用度>がどれくらいなのか、を此処ですぐ確認することができるのです」と言ったのです。要するに、彼がこれまでにこのアプリを使って行ってきた全ての取引の内容に応じて、彼にはすでに一種の「信用等級」がついている、というわけです。

 目からウロコ、の感じがいたしました。実際、これこそ素晴らしい着眼であり、発明だと気づきました。

 アリババが今日の地位を築く発想の基盤にも同じものがあったと思うのですが、そもそも「信用不安」が支配する環境なのだから、取引スキームのなかに、つまり売り手と買い手、双方の間に、モノとカネを安心して交換できる確認制度を作ってあげたわけです。非常に単純ですが、素晴らしいソリューションとなりました。(往々にして成功する戦略は、単純明快なものです)

 中国は世界第二位の経済大国―それも、かなり高い確率で、向こう十数年の間にはGDPでナンバーワンとなるでしょう―となりましたが、依然、消費者は安心してモノを買えない精神状態にあります。

 しかし、そうした彼らも、「友人」にはカネを預け、日本で「爆買い」してもらうのです。此処に、カギがあったのです。

 彼らは、大手スーパーも信じないし、国有企業も信じません。そこでもニセモノを売っているかもしれないし、あるいはニセモノを造ったり、流しているかもしれないと、思っているのです。

 ところが、親戚や友人のことは信じるのです。それは、それこそが、彼らが依って立つ、依って生きる生態系(エコシステム)だからです。そのなかで、生きる。そのなかで、助け合う。

 国家や企業など、「公」とされるところは、「利」だけで物事が動いていく。そこには「信」を置き得ない。しかし、「友人」とは、そうした「公」の対局に位置する「私」のネットワークであり、ほんらい政治的立場にも経済的地位にも影響されにくいものです。

 ですから、中国人は基本的に、日本人からみれば比較的あっさり「国籍」を変えたり、長年勤め上げた「企業」を退職するようにみえるかもしれませんが、「友人」を簡単に見限ることはしない筈です。それは、「友人」を裏切るような人間であると一旦かれらのネットワークで烙印を押されれば、もっとも基本的な依って立つ基盤を自ら破壊することになるからです。

 微信とは、このような彼らの生態系、根本的に依って立つものなのです。だからこそ其処での「信用等級」には重みがあるのです。

 サービスの供給側でこの生態系に関わる人々―たとえば、「滴滴出行」を使う白タクの運転手―も、いまや中国人の消費行動が丸ごと「微信」に包含されつつあり、いわば言葉遣いの一つ一つまで常時チェックされ、レビューされかねないほど、ある意味徹底的な「モニタリング」を受けているため、「かなり態度が良くなってきた」(わたくしの友人談)そうです。

 重ねて言えば、中国で電子商取引全般が今日の隆盛を迎えた原因は、中国人の生活文化、世界観、処世法に強烈にマッチした「支付宝」や「微信銭包」のようなインフラストラクチャーが創造されたからです。

 これは、一方では、世界的な動きと完全に同調しており、情報統制全体主義とでも言うべき新たな問題になる宿命を負っています。しかし、新たな経済成長の舞台が此処に整いつつあり、それがすでに巨大な、不可避のものとなってきていることは争い難い事実です。

 最後に、中国でネットショッピングが急成長しているからといって、では日本のサービスプロバイダーが向こうに乗り込んでいけるかと言えば、わたくしはほとんど成功の可能性は低いと思います。

 中国のネットショッピング、そしてその周辺を固める各種インフラは、アリババやテンセントにより、すでにほぼ確立しています。日本企業がそこに入り込む余地は、もうあまり無いでしょう。

 しかし「安心安全」で買われる日本製品を、いかに品質を維持し、日々、むしろ向上させていけるかが問われていることは言うまでもありません。さらに、中国人消費者の特性をしっかりと理解した上で、どのように自社ブランド、地域ブランドを向こうに向けて発信していけるかについてはまだまだ工夫があって然るべきでしょう。

 両国間にこれだけの政治的な軋轢があるなかで、なおも失われていない日本製品への信頼。それが「爆買いツァー」などという形ではなく、それらを遥かに凌駕するネットの世界で、巨大な流れが作られつつあるのです。歴史的な中国の台頭を日本の地域再生、経済活性化に繋げていけるか。本当の大勝負は、これからです。(執筆者:薄田 雅人)


薄田 雅人

薄田 雅人
http://www.cjworks.net/

株式会社フェイス 執行役員
1960年鎌倉生まれ。成蹊大学在学中に現代中国学者の加々美光行師と出会う。同校卒業後、アジア経済研究所調査研究部にて中国語研修受講。その後国費留学生として上海復旦大学中文系に留学。帰国後、日本国際貿易促進協会で理事長秘書、金融投資協力部、投資推進チーム課長等歴任。1997年に海外投資経営コンサルタントとして独立。中国滞在年数は上海、大連、北京で10年余。数々の直接投資案件を成功させてきた。2004年から国産パッケージソフトウェア(字幕制作ソフトウェア、字幕ソリューション)の国際展開に携わり、現地法人総経理として中国市場開拓の最前線に。CCTV(中国中央電視台)、中国電影集団等、中国業界最大手企業への納入を成功させた。著書に『中国で勝つ-鳴動する13億巨大市場攻略の条件』など。

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