【大陸ビジネス新潮流】株安でも元切り下げでも中国人の需要は衰えることはない-鄧明輝氏


 「申し訳ありません。出張後で少し仕事がたまっていて。」約束の時間に少し遅れて、仕立てのいいスーツに身を包んだ紳士が現れた。

 本日ご紹介するのは株式会社大都商会・鄧社長。大都商会は中国をはじめ東南アジアにも展開しているので、近距離の出張かと思っていたが、ヨーロッパだったそうだ。長江商学院のCEOクラスに参加し、ついでにドイツやオランダで原材料を探していたという。


≪株式会社大都商会・鄧社長≫


 武漢市出身の鄧明輝(トウ・メイホイ)氏は1988年に来日。語学学校に通い、アルバイトもする傍ら衣類や雑貨の輸出などを試みる。そして、学校を卒業した1992年、株式会社大都商会(以下大都)を設立。

 現在は、大都本社と関連会社20社程度で大都グループを構成。本社が日本に5ヶ所の工場を所有しているほか、関連会社が中国に5か所、ベトナムに1か所の工場を持ち、東南アジア、アメリカ、ヨーロッパの4か国で営業所・事務所を展開している。


廃プラスチック事業で一時は売り上げ約65億円に


 当時、日本ではバブルが終焉をむかえつつあり、ゼネコンは石の建材の調達先をイタリアから中国に切り替え始めていた。鄧社長はそこに目を付けたのだった。

 コネもなく、すべて一人でやらなければならない。カーナビなどない時代に、全国を車で営業して回った。石材はあらかじめサイズ等を決めて発注する。当時の中国の品質管理はお粗末なもので、港に着いたものがすべて使えなかったこともあるという。

 また、一般にゼネコンからの手形は現金化までの期間が長く、その間に相手先が倒産してしまったこともある。山あり谷ありで涙が流れることも少なくなかった。

 そんな鄧社長の人生を変えたのがプラスチックだった

 香港の知人が、廃プラスチックのリサイクル事業を持ちかけてきたが、全く未知の分野でもあり、断った。ある日、千葉に石材の営業に行ったとき、その横には廃プラスチックが山積みにされていた。当時の日本では廃プラスチックは産業廃棄物として、お金を出して処分するものだった。それが、1トンで300米ドル程度のオカネになる。

 一躍廃プラスチックビジネスのフロントランナーとなった鄧社長の下には大量の廃プラスチックが集まり、香港向けのコンテナが並んだ。ビジネスモデルのイノベーションはNHKのニュース番組をはじめ、民放のドキュメンタリー番組にも取り上げられ、地方に営業に行ってもすぐに分かってもらえるようになった。廃プラスチックはピーク時には約65億円もの売り上げがあったという。

 日本で洗浄等を行い、中国で再生加工をする。両国の工場も徐々に増えていたが2008年のリーマンショックでは大きな痛手を受けた。需要は激減し価格は5分の1まで暴落、工場の操業停止などにも踏み切らざるを得なかった


コンパウンド事業に追い風


 創業以来の危機を何とか乗り切ったものの、リサイクル事業は参入障壁が高い。

 そこに付加価値を付けるべく始めたのがコンパウンド事業だ。コンパウンドとはプラスチック原料に薬剤などを添加して、強度を高めたり使用目的に合った再生プラスチックを生み出す技術だ。これは設備投資や研究も必要で一朝一夕に真似できるものではない。中国・青島に工場を設立した。

 “エコ”機運が高まる中、欧米の政府が、政府で使用するOA機器に使われるプラスチックの15%を再生プラスチックとするルールを定めたことも追い風になった。かつて、ヴァージンプラスチックで作られていたテレビカバーなども再生プラスチック製が主流だ。

 いま、世界のテレビメーカーは、サムソン、パナソニック、ハイセンス、TCLが4強となっているが、大都は中国に工場を持つ、サムソン以外のメーカーと取引がある。中でもハイセンス製品に占める再生プラスチック比率は80%にも達しており、月に1,300トンほど納入しているという。

 現在、ベトナムに工場を持つサムソンへの供給準備を進めており、今年の年末くらいには納品を開始する予定だという。再生プラスチックはヴァージンプラスチックに比べてコストが安く、環境にも優しい。需要は高まり競合が激しくなる中で、大都の持つ強みは原材料集めにある。ここで、リサイクル業界の先駆けとして築いてきたネットワークがモノを言う。最近では、さらにネットワークを広げるべく、ドイツに事務所を開設した。


将来の収益の柱を育てる


 会社も安定した。この数年でインターネットの普及で時代が大きく動くようになった。視野を広め、人脈も築いてもう一段上を目指したい。その思いが強くなり昨年4月から長江商学院のCEOクラスで学んでいる。CEOクラスはビジネスに対する意識などが同レベルの人間が集まっているので、意思の疎通が早いし世界各地から最新の情報が入る。

 また、ここから生まれた事業もある。昨年設立した恒逸JAPANは中国最大手の石油化学製品メーカーである恒逸集団との合弁企業だ。ヴァージンプラスチック会社と再生プラスチック会社と聞くと相反する存在のようだが、共同代表を務める方賢水氏はここで出会い、すぐに意気投合し、合弁に至った。

 大都を育ててくれたプラスチック事業は、自社の「顔」として続けてゆく。しかし、鄧社長はその先を見据え、長江商学院で培った人脈も活用して収益の柱を育てている。それが、不動産、観光、卸売、そして投資だ。

 先日の上海株暴落に始まる株安は確かにダメージをもたらしたが富裕層はそれでも余裕があるし、人民元が切り下げとなっても、まだまだ円は安く、特に高額商品は中国よりもかなり割安だ。中国人の需要はまだまだ衰えないと考えている。以下、各項目をどう展開するか簡単に紹介する。

不動産


 23区内に複数のビルを所有。日本に進出を希望する外資系企業への賃貸を考えている。

観光


 元の切り下げの影響は限定的で、オリンピックに向けてこれからも観光客は増えると考え、中国の大手旅行社3社と提携を進めようとしている。また、中国人観光客向けに御殿場のホテルを購入した。北京観光で万里の長城が外せないように、日本での団体旅行に必ず組み込まれるのが富士山。アウトレットモールが近いのも魅力だ。

卸売


 中国向けに様々なメーカーの生活実需品を扱っている。中でも牽引役となっているのは、大王製紙の紙おむつだ。総代理店となっているが、中国国内の免税店でも紙おむつなどの販売が可能になり、販売チャネルが広がっている。また東証に上場している子供服メーカーの製品も実店舗とインターネットで販売している。日本向けには、世界第3位のテレビメーカー、ハイセンスの代理店となり営業を進めている。

投資


 仲間を募り、10数億円を集めて東証の上場企業への投資を考えている。高品質なモノを作っているメーカー、中国にはない技術を持っているメーカーが対象で、現在交渉を進めている企業もある。


 その他にも新規事業のアイデアをお持ちのようで、是非お聞きしたかったが時間となってしまった。

 最後に社内のあるスペースに案内してくれた。鄧社長自らがデザインを考えたという空間は、木のブラインドカーテンと間接照明が温もりを感じさせ、一部は畳の小上がりになっていて、くつろぎながら考え事ができそうだ。「仕事の後、一人でワインを傾けながら、いろいろと考える」のが理想だが、一カ月のうち半分は海外を飛び回っているので、そのような時間がなかなか取れないそうだ。鄧社長の新たな挑戦はまだまだ続く。


インタビューを終えて


 インタビュー中は、苦労話もさらりと話されたが、成田に降り立った時の所持金は5万円。風呂のない安アパートで暮らし、買い物は値下げ品で済ます。学費を払うために夜勤をこなし、雑貨や衣料ビジネスに取り組む。当時の鄧青年は、20年後の自分の姿を想像できなかっただろう。

「私はサラリーマンの経験がない。最初から一人で立ち上げてやってきた。苦しいこともたくさんあったけれど、あのときの苦労があるから乗り越えることができ、今の私があるのです。」

 長江商学院の戦略論教授が、中国の経営者の傾向の一つとして、イチかバチかという博打的なところがあり、基礎をしっかり作らずに成長だけを目指す面があると指摘したことがある。事業の初期で多くの苦労を重ねてきた鄧社長の「皆が幸せな今の状態を長く保つことが大事」という言葉が印象に残ると同時に、堅実に物事を成し遂げていくことを是としている方だけに今後の成長が楽しみに感じられた。(執筆者:大上 智子)


大上 智子

大上 智子
http://jp.ckgsb.edu.cn/

長江商学院 マーケティングマネージャー(日本担当)
慶應義塾大学法学部卒業。在学中に第一回交換留学生として姉妹校の上海復旦大学で1年を過ごす。卒業後は複数の外資系企業で海外勤務を経験し、中国在住歴は1995年より通算20年にわたる。現在は長江商学院のマーケティングマネージャー(日本担当)を務める。長江商学院は、香港一の財閥、長江実業グループ会長、李嘉誠が設立した李嘉誠財団の支援で2002年に開校した。中国で初の教授陣自らの手で運営される、民間のビジネススクールで、アリババの創業者ジャック・マー氏をはじめとした有名起業家、有名企業経営者を多く輩出している。

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