映像の力、取り込んで 東京五輪契機に「Nippon」発信


マレーシア航空墜落事故にみる「英語」の覇権


 昨年7月、紛争続くウクライナ東部で、アムステルダム発クアラルンプール行きのマレーシア航空NH17便が墜落するという事件が起きたことは、みなさんの記憶にもまだ新しいと思います。わたしは、北京のホテルでこの事件を知りました。

 事件後、わたしが北京に滞在していた十日余りの間、CNNとBBC、そしてRT―ロシアのニュース専門局。365日24時間英語ニュースを配信。rt.comが、それこそ24時間ぶっ通しで、天気予報とCMを除けば、ほとんどこの航空機撃墜事件を取り上げ、お互い相手方の非を詰り合っていました。

 CNNとBBC、そしてRTはそのホテル独自の設定であったのでしょうか、チャンネルが隣り合っていたので、容易に見比べることが出来、非常に興味深かったわけです。(ちなみに、時たまNHKワールドを観てみると、お子さん向け番組であったり、料理番組であったりして、其処にもまた、ある種の感慨を抱きました)

 RTの英語放送は極めて質の高いものだと感じましたが、重要なことは、これが「英語放送である」ということでした。

 CNNやBBC、そしてRTやCCTV(China Central Television)には、大国の宣伝機関であるという側面があります。CCTVはそうだろうが、英米マスコミはちょっと違う、彼らには報道の自由を守る使命感がある、と反論する人がおられるかもしれません。しかし、見方を変えれば、時と場合により、「彼ら」こそ真に強大な情報収集力と分析力、宣伝力を持ち得るのだ、という言い方ができようかと思います。

 中国の台頭は、歴史的な出来事です。それは、1983年の初訪中以来、30年間以上にわたって「中国」と真正面から向き合ってきたわたしにとって、間違いのない実感です。しかしそれでも、現代の世界の、すくなくとも「宣伝戦」に於いて圧倒的な覇権を握っているのは米英であり、「英語」であります。

 これは、非英語圏の国々の教育体制をみれば、あまりにも明らかなことでありましょう。日本人でも中国人でも韓国人でも、はたまた、ルーマニア人でもセルビア人でもロシア人でも、大学教育を受けようと思えば、普通「英語」抜きでは考えられない。これは、経済力等で劣勢な国でこそより明らかな傾向であって、たとえば、此処に挙げたような東欧の小国であれば、まともに大学教育を受けた人で、英語で本を読めない、英語で知的会話をすることができないという人はどちらかと言えば少数派であろうと思われます。

 自国内での発展空間が限られる小国の人ほど「英語」を強く志向し、より豊かな生活へのチャンスがある「海外」に活路を求めようとする。要するに、「英語」は、世界中ほとんどの国で、「世界への窓」なのであります。

 このような状況となった背景には、英国から米国と続いてきた世界覇権の歴史があると思います。資源の争奪戦が第二次世界大戦で一応終了し、東西冷戦体制がソ連の崩壊で終焉を迎え、「パクス・アメリカーナ」と称される米国一極体制の時代になりました。その後、前述のように中国が台頭し、相対的に米国の力の衰退が囁かれるようになってきてはおりますが、インターネット時代となって、文化の面ではむしろ米国の覇権が強化される傾向にあると、わたしは思っています。

 わたしたちは現在、WindowsのOSに依存し、Googleで検索し、Amazonで買い物をし、FacebookやTwitterで「人とつながって」います。スマートフォンはiPhoneかAndroidかのどちらか、でありましょう。


覇権への抵抗を見せる中国


 こうしたなかで、中国が、ささやかな抵抗をみせています。Googleに対して厳しい要求を突き付け、Googleがこれを呑まないとなると、検索サービスはおろか、Gmailの使用もできなくするという措置を取りました。(参考記事:東洋経済 http://toyokeizai.net/articles/-/57002

 胡錦濤時代から、CCTVは多国語チャンネルを立ち上げ、CCTVアメリカをはじめ、アフリカ十数カ国でCCTVコンテンツを中心とした中国独自のコンテンツを発信する体制を整えてきました。近年よく話題となる「孔子学院」もまた、そうした中国のソフト・パワー強化戦略の一環でありましょう。

 こうした中国の対抗措置は、インターネット時代の基幹インフラを米国だけに握られまい、とする戦略的動機から出ています。そしてそれらは一定程度成功しているとみてよいでしょう。たとえば、Amazonに代わるサービスも、FacebookやTwitterに代わるサービスも国内企業が提供しており、非常に大きな市場が育ってきているからです。

 ただ、総じていえば、こうした中国の「抵抗」にも限界があります。

 「ソフト・パワー」という概念をそもそも提唱したことで知られるジョセフ・S・ナイ教授が丁度二年ほど前に新外交フォーラムの場で、その「限界性」について、かなり余裕をもって指摘しています。(参考記事:The Opinion Pages; Why China Is Weak on Soft Power(英語)

 要するに、中国がどう「文化輸出戦略」に投資をし続けたところで、「市民的自由」を抑圧する体制であり続ける限り、中国が真のソフト・パワー―つまり米国を脅かすほどのソフト・パワー―を世界規模で身につけることはむずかしい、と言っているのです。


日本はどう動くべきか?


 先程、わたしは、ウクライナの惨劇を例に、世界の報道機関(宣伝機関)の凄まじい鍔迫り合いを、わが国営放送の穏やかさと比較して取り上げました。それは、おそらく、読者のみなさんに、わたしがその「穏やかさ」を揶揄しているような印象を与えたかもしれません―たしかに、そういう部分も少しはあります―。

 けれども日本という国、日本人という民族の立ち位置を思えば、むしろそのくらいのほうがいい、という見方が成立するのかもしれません。

 もう故人ですが、外務省出身の論客で、「日本人はとにかくアングロサクソンと協調していけばよいのだ。それこそが日本の国益とアジアの平和につながる」という主張をそれこそ朝から晩までしていた人がおり、わたしはむかし、これはまことに乱暴で、とんでもないことをいう人がいたものだと思ったのですが、明治から昭和の敗戦、戦後復興からバブル崩壊へと至る歴史、さらにはバルカン半島の近代史などを読み漁るにつれて、「アングロサクソンと協調していけばよい」とやや乱暴に話していた故人の想いが寧ろわかるような気がしてきました。

 CNNやBBC、CCTVやRTのような報道機関(宣伝機関)は、世界の潮流に影響を与えようと図る真の「大国」が持てばよいもので、日本のように、米国―すなわちアングロサクソン―の世界戦略の中で、大枠これに従って生きる国―しかも貿易立国―にはむしろ百害あって一利なし、とみることもできるわけです。

 日本人は、いまの立場をわきまえた上で、政治的にどこかの国に毒づくようなことは極力これを慎み―正当な主張までしない、ということではありません―、日本の「売り物」であるすぐれた製品や産物、観光資源などを積極的に世界中に知らしめ、地方を活性化し、中小企業の活力を存分に引き出し、社会の継続的発展を図ることに注力すべきなのです。


東京五輪は「日本の魅力」を世界に発信する最大のチャンス


 2020年の開催が決まった「東京オリンピック」が、当面、「日本の魅力」を世界に発信する最大の契機になるでしょう。世界から多くのお客様がお越しになるこの一大イベント迄に、わたしたちは、魅力発信のためのツールを整備せねばなりません。

 最も効果的で、コストを考えても理想的なツールが「インターネットでの映像配信」でありましょう。

 いまやインターネットメディアの力は、テレビとは同列で論ぜられないほど大きなものになりました。人々は製品やサービスを選ぶ際に、YouTubeやAmazon、あるいはExpediaなどに掲載されたレビューを参考にします。それは何処の国の人でもほとんど変わらないでしょう。(中国では普段YouTubeが観ることができないわけですが、それならそれに代替する動画サイトがいくらでもあります)

 若者層ではインターネットの影響力がほぼテレビを圧倒しており、一人暮らしでもテレビを持たない若者がたくさんいます。こうした状況はまったくのところ世界共通であり、国も民族も宗教も、なにも問いません。すなわちインターネットメディアをどう活用できるかが、企業にとっても、地方自治体にとっても、まさに死活的重要性をもつようになったということであります。

例:「北海道」と中国人観光客


 ひとつ、例を挙げてみたいと思います。「北海道」と中国人観光客の関係について、であります。

 「北海道」はいまや、中国人―そして中国語圏に住む多くの人々―にとり、憧れの地となっております。こうした北海道ブームに火をつけたのは、一本の中国映画(『非誠勿擾』。邦題:『狙った恋の落とし方。』http://nerakoi.com/)でした。わたしは公開当時北京に住んでおり、劇場でこの映画を観たのですが、正直に申し上げれば、当時、この映画がこれほど大きな社会的影響を巻き起こすことになるとは思ってもみませんでした。

 同じ頃この映画を観た友人―彼は、CCTVで要職に就いていました―が、わたしに、普段冷静な彼としては珍しく、
「日本と聞けば、すぐに東京のような大都会をイメージしていた。あの映画で描かれた北海道には、雄大な大自然があり、どこにでもある庶民の暮らしがあった。とにかく行ってみたいと感じた」
 と、やや興奮気味に話してくれたことをいまも思い出します。

 『非誠勿擾』のインパクトは、まことに強烈なものとなりました。いまでこそ日本を訪れる中国人が増え、日本の多様な魅力を知る人も増えてきましたが、映画公開からしばらくは、「日本と言えば北海道」というくらい、「北海道」に引き寄せられる中国人が多かったものです。

 映像のもつ力は、絶大です。

 日本の特産物や観光資源をすべて映像データでまとめ上げ、これに主要言語での吹き替えや字幕を付ければ、どれだけ強力な魅力発信ツールになるでしょう。プラットフォームにはYouTubeを使ってもよいでしょう。(世界中から見てもらえるプラットフォームを利用するに如かず、です)

 時間はあるようで、もう「2020年」は目と鼻の先です。

 日本にとってはまさに千載一遇のチャンスですから、企業も地方自治体も、映像での発信力、宣伝力強化をいまこそ真剣に考えてみるべき時だと思います。残された時間は、もうそれほど残っていないのですから。(執筆者:薄田 雅人)


薄田 雅人

薄田 雅人
http://www.cjworks.net/

株式会社フェイス 執行役員
1960年鎌倉生まれ。成蹊大学在学中に現代中国学者の加々美光行師と出会う。同校卒業後、アジア経済研究所調査研究部にて中国語研修受講。その後国費留学生として上海復旦大学中文系に留学。帰国後、日本国際貿易促進協会で理事長秘書、金融投資協力部、投資推進チーム課長等歴任。1997年に海外投資経営コンサルタントとして独立。中国滞在年数は上海、大連、北京で10年余。数々の直接投資案件を成功させてきた。2004年から国産パッケージソフトウェア(字幕制作ソフトウェア、字幕ソリューション)の国際展開に携わり、現地法人総経理として中国市場開拓の最前線に。CCTV(中国中央電視台)、中国電影集団等、中国業界最大手企業への納入を成功させた。著書に『中国で勝つ-鳴動する13億巨大市場攻略の条件』など。

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