中国人の血族主義 ~地域差の大きい中国と日本とは違う恥の概念~


中国現場コラムvol. 141 中国人の血族主義~地域差の大きい中国と日本とは違う恥の概念~

  中国人と言っても、地域によってそれぞれの性格に大きな差があります。日本の26倍の国土を誇る中国では、地域によって、同じ中国人でも、全く違う人種のように性格が異なります。

 また、中国は、多数民族である漢族の他に、55もの少数民族を抱える国家ですが、民族による差もあります。本稿で紹介する民間企業の女性オーナーは、中国の内陸部に位置する湖北省武漢市に居住の武漢人で漢族という女性オーナーです。

 今回は、ある中国の個人オーナー企業の実態を通じて、中国人の血族主義および日本とは違う恥の概念について考える現場コラムです。


1. 武漢人の一般的な特徴


 武漢人の一般的な特徴は、自分のことが大好きで、自分だけがすべて正しく、他人はすべて間違っていると考えがちなところです。また、すぐに興奮して怒り出します

 交通事情も特徴的です。筆者は中国のほぼ全省・直轄市・自治区に行っていますが、武漢市ほど交通ルールを守らない都市は他に知りません。道を逆走するバイクどころか、逆送するトラック・車をほぼ毎日見ます。トラックも物を平気で引きずったまま走りますし、冗談のようですが、道をバックで逆走し続ける車を見たこともあります。

 道を走っている車も、側道に止まっている車も、後ろは一切見ずに、自分の前方だけを見て車線に突っ込んでくるため、交通事故に遭いそうになることも頻繁にあります。「自分だけ良ければそれで良いのか!」と怒りたくなることが頻繁にあります。

 武漢は、治安の良い場所ではありますが、違った部分で大変危険な街だと言えます。

 たとえば、広東省広州市や広西チワン族自治区桂林市では、歩行者も交通ルールを守るということ、すなわち、横断歩道では赤信号時はきちんと止まるのが一般的ですが、武漢市では信号は存在しないのも同様です。現在、武漢に在住している広東人の友人も、武漢に来たばかりのときには閉口したそうです。

 歩きながら麺を食べるのも武漢人のこれまた特徴です。エレベーターの中でも、武漢名物の熱乾麺(ゴマダレ麺)を食べていますし、タバコも吸います。周りに他人がいることは一切目に入らず、大声で叫び散らします。

 中国には、「天上九頭鳥、地下湖北老」という諺があります。湖北人は、「自分たちは九つも頭があるほど頭が良いのだ」と言って、この諺を誇りますが、他の地域の中国人は逆に、「天上でずるいのは九頭鳥だし、地上でずるいのは湖北人だ」と言って、湖北人をそしります。ただ、よく言えば口が回り、商売はとても上手なため、一般的な日本人、日本企業では、対応に四苦八苦する土地柄と言えます。


2. 一代ですべてを築いた中国人女性オーナーから見た血族主義の中身


 こういった地域を拠点とする武漢人である、この民間企業女性オーナーは、一代ですべてを築いた方です。周りは、夫、実の弟、実の兄の息子など一族で固めます。ただ、この女性オーナー以外の一族は、誰も働きません。ただ単に、女性オーナー一人の働きと財布にぶら下がっているように見受けられます。

 血族が何も仕事をしなくてもこの女性オーナーは何も言いませんが、従業員の勤務状況については、中国の労働契約法などはどこに存在する、というやり方をします。血族と血族以外に対する態度は、対照的です。

 あるとき、この状態について筆者は湖北人の友人に質問をしました。
筆者:「中国人は面子にはこだわるけど、あのように一族全員で、女性オーナーの財布にぶら下がるというのは恥ずかしくないのかな?男性が皆、働かないというのも何だかな・・・」

湖北人の友人:「日本人と中国人では恥の概念が違うんだよ。金持ちになったのに、一族を養わないと後ろ指を刺されて恥ずかしいし、面子が立たないんだよ」
 一族・血族は裏切らないが、他人はいつ裏切るか分からない。また、自分と血族だけがすべて正しく、周りはいつ自分を騙すか分かったものではない、と考えているように見受けられます。

 ビジネスとして大きな仕事をしているにもかかわらず、家のお手伝いさんの少額の食材の買出しなどにも、目くじらをたて、家計簿をきちんと付けさせたうえ、必要な金を最小限だけその都度渡し、おつりも目の前で再度数えさせる、という念の入れようです。


3. 会社内の人間の独立・移籍を警戒する


 自社内の人間を大いに警戒するのも特徴です。特に、自分が手足として使っている番頭(総経理)のことも、疑ってかかります。

 中国人は、「鶏口(けいこう)となるも牛後となるなかれ」という考えをする人が多いのが特徴です。すなわち、大きな組織で人の尻についているよりも、たとえ小さな組織でも頭になる、自分で会社を作りたいと考える人が多いのです。そういった傾向にあるためか、この女性オーナーは、自社内の有能な中国人の動きは特に警戒して見ています。「庇(ひさし)貸して母屋取られる」という状態を疑い、恐れます。

 総経理は、この女性オーナーから独立の疑いをかけられないよう、客先などとの重要な会議の場では席を外すことが多くあります。こういったことは、工場長など相手にはさらに徹底しています。懐に悪い金を納めようとしているのではないか、他社に客先をもって移籍するのではないかと頭から疑ってかかり、客先から名刺を受け取ることも許しません。自分と自分の血族以外を信頼しないことについては徹底しています。

 5年後の1万人民元よりも、今の1,000人民元を遮二無二とりにかかるのも特徴です。それにより逆に損をすることもあるとは考えません。自分だけが重要と考え、他人の感情は無視します。こういったことが当たり前の武漢人なら気にしないのかも知れませんが、たとえ中国人同士であっても、他地域出身の中国人にはこのような女性オーナーの考えにはついていけない、という思いを持たせることも多いようです。


4. 日本企業の戦略


 日本企業は今まで中国沿岸部、たとえば、上海市、広州市、大連市などに多く進出してきました。一方、今までと比較して、内陸に進出する企業も多くなってきています。

 しかし、外国人や外国企業の進出に慣れた沿岸部の中国人とは全く違った中国人が内陸部では待ち構えています。役所の対応も全く異なります。たとえ、沿岸部での成功経験のある起業でも、内陸部でも同じように成功できるとは限りません。沿岸部の中国人には通じていたことや共有しあえた考えが、全く通じなかったり、共有できないこともざらにあります。

 中国は一つの国とは言っても、地域差が相当に大きな国です。「中国人」と一括りに行っても、56もの民族がいますし、たとえ多数民族たる漢族だけを考えたとしても、地域により全く別人です。上海市や広州市の漢族と河南省・湖北省・江西省などの漢族、また南方の雲南省や北方の黒龍江省の漢族とでは、それぞれに全くの別人です。

 日本企業は、中国人、中国と一括りにせず、進出先がどこであるかによって、細かく戦略を練る必要がありそうです。中国各地域を実際に見、実際に接触し、住んでみて、ますますその思いを強くさせられています。以上。(執筆者:奥北 秀嗣)


奥北 秀嗣

奥北 秀嗣

公認内部監査人
1996年早稲田大学教育学部教育学科社会教育学専攻卒業、2001年早稲田大学大学院法学研究科民事法学専攻修了(法学修士)。2009年中国北京にある中国政法大学大学院に留学し民商法を研究すると同時に、中国現地各有名弁護士事務所にて中国法務・労務を中心とした実務研修を行う。
【著書】
◾︎『中国のビジネス実務 人事労務の現場ワザ Q&A100』(共著、第一法規、2010年)
◾︎『中国のビジネス実務 債権管理・保全・回収 Q&A100』(共著、第一法規、2010年)他。
【論文】
◾︎「中国で債権回収に手こずる~現場からみた注意点(合弁、独資別)~」(中央経済社『ビジネス法務 2011年10月号』)
◾︎「中国ビジネス 現場で役立つ実務Q&A」(第一法規『会社法務A2Z』2012年1月号より連載中)
◾︎「中国から”上手”に撤退する方法」(中央経済社『ビジネス法務 2013年6月号』)
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著書


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