中国「防空識別圏設定」 領土拡張の背景にある本当の思想


 最近中国が防空識別圏を設定したことが大きなニュースとなっています。尖閣諸島問題にしても日本の論者は「中華思想による領土拡張」と述べているのを目にします。今回の防空識別圏設定においても同じことをテレビで述べているのではないでしょうか。

(※筆者は中国在住で日本のテレビは久しく見ていないのでこれは想像です。今回の防空識別圏設定において「中華思想による領土拡張」という論旨展開が日本でない場合はお許しください。)


「領土拡張」の背景にある思想


 「中華思想による領土拡張」。聞けば思わず「なるほど」と思うところもありますが、本当にそうなのでしょうか。中華思想の他にも現代中国を語る上で重要な思想は社会主義思想です。社会主義思想の究極の目的は以下のようなものです。
地球全体を社会主義思想に染め上げ、一つの国家ができる。その後、国家という概念もなくなり国家の消滅と共に金銭の概念も消滅する。国家と金銭が消滅することにより統治者と搾取される者がなくなり、全ての者が平等となる理想郷がやってくる。
 ここで重要なのは「地球全体を社会主義思想に染め上げ、一つの国家ができる」です。つまり領土拡張は社会主義思想の表れでもあるわけですね。

 なお、単に「中華思想」と言った場合、同じ中華民族が暮らす地方である台湾、香港、マカオでも同じことが起こってなければなりません。しかし、これらの地方にはこのような大きな動きは見当たりません。ここから領土拡張政策は中華思想より社会主義思想によるものなのでは? という仮説の方がある程度の説得力を持つわけです。


私達が理解すべき「社会主義思想」


 ここまで防空識別圏設定のお話を例にしました。当コラムの趣旨に戻り、中国ビジネスに関係あるお話をしましょう。筆者が防空識別圏設定の例で何が言いたかったのかというと、日本人はどれだけ現代中国のことを分かっているのか? ということです。

 何でも簡単に「中国人は」と言いますが、既に述べた通り60年前まで同じ国だった台湾でも同じことが起こっているのでしょうか。台湾でも同じことが起こっているなら「中国人は」という言い方をしても構わないでしょう。しかし、そうはなっていない現象の方が多いのです。

 中国大陸と台湾の違い、それは社会主義思想による統治があったか否かです。つまり大陸で起きているけれど台湾では起こっていない現象はすべて社会主義思想が原因という仮説が成り立ちます。しかし筆者の見るところこう考える日本の論者はとても少ない。安易な「中国人の国民性」で片づけています。

 中国ビジネスに関わるとき、担当の方は中国に関する勉強をたくさんするでしょう。しかし、ここで筆者が一番よく勉強してほしいと思うのは「社会主義思想」についてです。

 確かに中華思想が現代中国の思想に結びついている面もありますが、それ以上に大きく関わるのは社会主義思想です。基本的に中華思想はかの文化大革命時に右派思想として弾圧されました。その後中華思想は再び中国でもタブーとはならなくなったものの、一度は中国政府が否定していたものです。

 筆者が今まで発表してきたコラムなどには「社会主義法によれば」という表現が多かったかと思います。現代中国がモデルにした国家ソビエト連邦と社会主義思想を知ることは現代中国を理解する上では必須のものなのです。

 確かに中国を知るためになぜソビエト連邦という中国でない国、ましてもう存在しない国を知らなければならないのか他者が見たら奇異に見えるかもしれません。しかしそう思うことこそが、それだけ日本人が中国のことをよく分かっていない証なのです。

 マルクスの著作やソビエト、社会主義と名のつく本をいろいろと読めば、今まで気づかなかった中国の新しい面に気づくでしょう。そしてそれこそがビジネス関係を含めた中国をより知る方法なのです。

 もっとも日本ではそのような本を読んでいると「赤」だの「左の人」だの批判されるのも事実なので、読むときは周りを気にしながら読んでください。


高橋 孝治

高橋 孝治
http://ameblo.jp/takahashi-chinese-law/

法律諮詢師(中国政府認定法律コンサルタント)
日本文化大学卒業・学士(法学)。法政大学大学院修了・会計修士(MBA)。都内社労士事務所に勤務するも中国法の魅力にとりつかれ、勤務の傍ら放送大学大学院修了・修士(学術)研究領域:中国法。後に退職・渡中し、中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法研究の傍ら、中国法に関する執筆・講演などを行っている。特定社労士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。出演テレビ番組に「月曜から夜ふかし」、「一虎一席談(中国・香港で放送)」。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(単著・労働調査会、2015年)、『中国年鑑2016』(共著・中国研究所(編)、「治安・犯罪動向の章」担当。明石書店、2016年)ほか。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。詳しくは「高橋孝治 中国」でWEBを検索!

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