新華僑の「2万円成功物語」 今の日本人にない”何か”がある


  2000年に、私にとって記念すべき一冊の本が文庫化した。中公文庫から出た『新華僑』である。いまや故人となった「金儲けの神様」との異名で知られた邱永漢さんが、その解説に私の来日のことを取り上げ

「莫さんは……ソ連圏でもなく、アメリカでもない、ある意味で、もっと難しい日本に来て、しかも文筆で生活する道を選んだ。大阪空港に降り立った時はポケットに60ドルしかなかったというが、あれから15年の歳月が経とうとしている。路頭に迷うどころか、知的労働で立派にやって行けるようになったのだから、新しい時代を立派に生きる新華僑のチャンピオンの一人と言ってよいだろう」
  と誉めてくださった。

  個人としての私にとって、邱さんのお褒めの言葉はまさに身に余る光栄で、後輩の私に対する大先輩の一種の温かい励ましだと理解している。しかし、これを新華僑全体に対する評価と受け取るなら、邱さんの解説は多くの日本人が気づいていなかったある事実を指摘したものと見てもよいと思う。つまり改革・開放時代の波に乗って怒濤のように海外に流れ出た新華僑の多くが裸一貫からスタートしたのである。


所持金60ドル(約6千円)で来日


  手前味噌になるが、「新華僑」は私の造語である。拙著『新華僑』のなかで、私は祖国に戻らず海外で創業する道を選んだ人たちを「新華僑」と呼び、次のように定義した。「老華僑に対して、1979年に中国本土で経済改革・開放政策が実施されてから以降海外に出国した、いわば外国での永住権をもつかもたないかにかかわらず、永住傾向の強い中国人を、私は新華僑と呼ぶ

  当時の中国は、近代化を実現するために外国から科学技術に関するノウハウを導入しようとしていたばかりでなく、巨額の外貨を支払って高価なプラント設備などもたくさん輸入していた。外貨を稼ぐ能力も海外に輸出できる商品もあまりなかったので、国民に対して外貨の海外持ち出しが厳格に制限されていた。そのため、海外留学のために出国する時は、1、2万円以上持ち出すことができなかった。だから、私は所持金わずか60ドル(現在のレートで約6,000円)で来日した


刻まれていく「2万円成功物語」の新たな1ページ


  1997年、私は日本のマスメディアでほぼ無一文の状態からスタートした新華僑がやがて日本での成功を手に入れた状況を振り返って、新華僑の「2万円成功物語」と評価した。10数年前のこの話を最近、想起させられた出会いがあった。

  今年6月、「フォーマル子供服専門店KAJIN」を創業した女性社長の林志英さんが初めての著書『なぜか好かれる「ココロ美人」になる5つの幸せオーラ』を出版した。どうしたわけか、その出版記念パーティに私が呼ばれ、あいさつまで指名された。

  いただいた同著書を読むと、23歳の1988年、留学のために彼女が日本に渡ってきたときも、財布に入っていたお金は2万円の半分にも達していなかったそうだ。現在、その会社がフォーマル用子供服では日本最大級の品揃えを誇るまでに成長し、不動産投資家まで自称するようになった彼女も、間違いなく「2万円成功物語」に新しい1ページを書き込んだ新華僑の一人である。

  その意味では、彼女の最初の著書からは彼女の成功物語の足跡が読みとれるかもしれない。そのバイタリティには、いまの日本人にない何かがあったはずだ



<フォーマル子供服専門店KAJIN>


莫 邦富

莫 邦富
http://www.mo-office.jp/

作家・ジャーナリスト。1953年、上海市生まれ。上海外国語大学日本語学科卒。同大学講師を経て、85年に来日。95年に莫邦富事務所を設立。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続けている。また、「新華僑」や「蛇頭」といった新語を日本に定着させたことでも知られる。
日本企業の中国進出、中国向け商品のネーミング開発、日中地方自治体や企業に対するコンサルタントも積極的に進めている。博報堂スーパバイザ。SMBCコンサルティング顧問。安徽省観光大使。山梨県観光懇話会委員。石川県中国インバウンド研究会顧問。ニューコン株式会社(IT企業)社外取締役。大妻女子大学特任教授など。

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