日系美容室「ASAKURA」 中国市場攻略の秘訣を解く


  今回は対談形式でのコラム記事となります。日系ヘアサロンとして中国国内で最も成功をおさめているであろう美容室「ASAKURA」の代表でもあり、当サイト中国ビジネスヘッドラインにもご執筆されている朝倉禅氏と中国上海にて対談取材させて頂きました。

  「ASAKURA」の考える中国市場攻略を対談取材し、マーケティングビジネスを営む弊社VAIRONの視点でその秘訣を解きながら、この記事にて皆様にお伝えできればと思っています。現在、中国ビジネスに関わられている皆様に役立つヒントとなれば幸甚です。


<朝倉禅氏(左) と 筆者>



ASAKURA北京店、成功の秘密について


  田村:率直に、なぜ「ASAKURA」の海外進出先は中国だったのでしょうか。


  朝倉氏(以下、敬称略):日本での「美容師ブーム」も一段落した2004年でした。僕の地元は香川県なのですが、これから大阪に出るのがいいのか、それとも東京なのか。そんな事を考えている中で、アジアにも興味を持ち、タイやベトナム、そして中国を見るようになりました。

  そのなかでもやはり、その後の10年、20年を見据えた時に中国という国に当時一番可能性を感じたんです。それで、その中国においてやはり海外でやっていく以上は、日本人に認められるだけのサロンでは意味が無いな、と。やはり、その国の人に認められるような「ASAKURA」にしたいという気持ちがありました。


  田村:北京進出をするうえで、最初のきっかけはどうされたのですか。


  朝倉:上海や大連なども考えましたが、その次の展開も見据えた上で、やはり中国のメディアの中心でもあり、経済の中心でもあった北京でやっていこうと決めたんです。


  田村:では、もともと何か人脈などの繋がりがあって、北京を選ばれたわけではないんですね。


  朝倉:はい、全くなかったです。一番最初に北京の街中で思ったのは、ファッションや美容に対してキレイにしていきたいという願望がある、という雰囲気を感じました。メディアを見て、日本だったりヨーロッパだったり、何かそれを中国の自分たちなりに真似しようとはしている感じが見て取れました。

  それであれば、そういったものをこの北京で自分たちが創っていく事はチャンスに繋がるんじゃないかと思いました。本当、ある意味思いつきみたいな形で、言葉も話せませんし、特に知り合いがいるわけでもなく。そういった中国進出でした。


  田村:では、「北京でこれをやりたい」ではなくて「やりたい事が先行していて、それが上手くはまるのが北京だった」という順序なんですね。


  朝倉:まさにそうですね。自分たちがやってきた事を活かせる場所であったという結果ですね。






中国への「ローカライズ」について


  田村:正直言ってしまって、中国で日系企業の成功例が少ない中、「ローカライズ(現地化)」は中国ビジネスの最重要テーマだと僕は考えています。その「ローカライズ」について朝倉さんの思われることってありますか?


  朝倉:まず大事なのは「中国の人たちが感じる価値はどうなのか」だと思います。当時、カラーやパーマのようなものを全くやったことのない人たちに対して、自分たちが今までやってきた事をそのままやって「あれ?あまり価値を感じてもらえていないかな?」というような試行錯誤する時期が最初は続きました。

  一番重要に思ったのは、中国でも「ひとつの流行の中に、そこにいくまでの積み重ねがある」ということでした。その積み重ねを理解しないと、お客さんがどの部分にカワイイと感じたり、今後どうしていきたいのかという気持ちを理解できないなと。それがあったうえで、日本らしさだったり、彼女達に感じてもらえる可愛さをどう創っていけるのかを研究していきました。

  本当に失敗を繰り返しながらのローカライズでしたね。それがのちの結果として中国での「ASAKURAスタイル」みたいな言われ方に繋がっていけたのだと思っています。


  田村:僕の会社は特性上、様々なジャンルの日系企業さんとお話しする機会が多くて。それでいつも思うんですが、必ず「ブランディング」って言葉出てきませんか?うちのブランドは日本だとこんなにもメディアに紹介されていて、こんな価格で、それで皆に受け入れられているんです、みたいな。

  結局、その「ブランディング」論で押し切ろうとしているうちは良いのですが、徐々に当初考えていたものが通用しなくなってくると、なんとなくマーケット自体に原因があるような話になっていくんですよ。ブランディングを受け止められる器がまだないんだ、的な。それがセンスであったり経済力であったり。


  朝倉:わかります。そもそもそのブランディング論が間違っていて、それは日本におけるブランディングノウハウであって、中国におけるそれとは違いますからね。だから、中国の人たちに「ブランド」として付加価値を感じてもらえるブランディングをしていかないといけないわけですよね。中国の人たちに向き合ったブランディングをしないと何の意味も無いですよ。


  田村:結局、本来であれば先ほど挙がった「ローカライズ」もこの「ブランディング」の一部であるはずなのに、日本で造り上げてきた価値イコール、ブランディング、で来ちゃってる事がそもそもの間違いですね。


  朝倉:そうそう。あくまで大事なのは「中国でのブランディング」であって、日本でやってきた事はブランディングじゃないんですよ。日本で成功してきたのであれば、それは「日本でのブランディングが成功した」というべきであって、それを中国に一方的に持ってきてブランディングだというのは押しつけですよ。自慢話と変わらない(笑)。


  田村:なるほど。今、話していて思いましたよ。いつも僕は「ブランディングとローカライズのバランスを考えるべき」みたいなことを言ってるんですが、その言い方今後は少しあらためます(笑)。

  一般的に使われている「ブランディング」って言葉自体の意味が違うな、と。そもそもブランディングって言葉の意味の中にローカライズも入っていて。そこが核心ですね、きっと。


  朝倉:アーティストなら良いと思うんですけどね。「これがオレだから」みたいなスタイルの押しつけがあって成り立つ部分もアーティストであれば勿論あるでしょうし。でも僕は美容師ですからね、やはりその国のお各様に喜んでもらえる提案をして、はじめてブランディングですよね。






上海店出店の意図と、今後の戦略について


  田村:今回の「ASAKURA上海」オープンまでの経緯と、ASAKURA的な意義をお聞かせ下さい。やはり進出には苦労されましたか。


  朝倉:そうですね、随分前からいずれ上海でも挑戦したいという思いはありましたが、やはり何度も話が流れたりもして時間がかかりましたね。結果的には今回、こういった形でお話を頂いて、ホテルの中と言う形での上海店オープンが実現しました。


  田村:ペニンシュラホテル(上海半島酒店)という立地にあたっての戦略はあるのですか。


  朝倉:ペニンシュラホテルの中にあるという特別な見せ方はあります。今回、店内にも他のサロンにはないよう面白さを見せたいな、と思っています。個室中心な店内も北京店とは違いますし、今回はアート作品を店内に飾ったりとか。

  あとは、こういったホテル内なのであらゆる国の方達に来てもらえる場所というのも面白い。今までは「中国人相手の日系ヘアサロン」というイメージだったものが、そういう制限に縛られる必要もないですからね。


  田村:これは今後感じられる事かとは思いますが、現時点で北京と上海でのビジネスの違いは感じますか。


  朝倉:上海という街は、線になっているように思います。北京はまだまだ各々が点としてのスポットに感じるので。


  田村:線と点?それはどういうことですか。


  朝倉:東京などと一緒で、上海って歩いているとお店だったり見るものが次々連続しているというか。北京って勿論大きな街ではありますけど、ひとつのお店や場所があって、その周辺を歩き回っても他には何もないというか。目的地の一カ所に目がけて足を運ぶ感じがするんですよね。そう意味で北京と上海の街のカラーが違うので、上海ならではの攻め方とかを探りたいですね。


  田村:では、今回の新店では、「上海ならでは」のような作戦もあるのですか。


  朝倉:やっぱりわかりやすい一番は「ホテルの中」ってことですよね。上海だからこそ、このホテルの中にあるってことで生まれる価値があるのではないかと思うんですよ。


  田村:あ、言われたい事わかります。僕も上海に居るようになって思うんですが、上海は「わかりやすい良さ」ってあると思います。自分がセレクトしたものに対しての「第三者からの見られ方とか評価」のようなものを上海の人は気にする傾向が強いように感じますよ。


  朝倉:「知る人ぞ知る」よりも「あ、あれね!」のほうのがいい気がしますよね。


  田村:「そのサロン知ってる!でも高級だしなかなか行けない。だから行きたい。」みたいな感じですよね(笑)。そのあたりの、今までのASAKURA北京とのブランディングの付け方の違いもこれからの楽しみですね。






中国進出をする日系企業について


  田村:日系企業にとって「中国はビジネスが難しい国」と言われる風潮が進んでいるように感じているのですが、どうでしょうか。日本ではちょっと中国進出が流行りではなくなってきている、といいますか。最近は他のアジア地域の名前が目立ちますよね。


  朝倉:「日本の」っていう枕詞を使ってビジネスをしていることが、かえって余計に難しくしてしまっている部分もあるのかな、と感じたりもします。業界によるとは思いますが、少なくとも僕らのような美容とかファッションとかの業界はやはりまだまだ中国には通用していると感じていますよ。

  なんだかんだで大きな市場だと思いますし、アジアの中でも魅力ある国である事に僕は変わりありませんね。まぁ、簡単に何でも受け入れてくれる国があるのでれば僕も行きたいですよ(笑)。


  田村:ビジネスジャンルにも依ると思うのですが、昨今の日中関係の影響はどう思いますか。


  朝倉:僕らの事で言うと、去年の島の問題があった後もサロンの来客数で言えば順調に伸びていきましたし、個人の感情と、やはり建前というか世間体的なところで言われている感情は違いますよね。


  田村:では、ASAKURA的にはほとんど影響がなかったという感じですか。


  朝倉:サロン業務ということであれば、全く影響はなかったです。まぁ、一部スタッフ教育的な部分や店舗展開的な部分で、停まったりしたものもありましたけどね。今回の上海出店の件も話が停まったりした時期もありましたが、結果的にはこうやって実現できてますから。どこの海外だって少なからずそういうものだと思うんですよね。


  田村:今後、日系企業の中国市場攻略の糸口はどう思いますか。


  朝倉:僕が思うのは、国際的な感覚を持っている方でも、中国とかアジアの事になるとなぜか一般的にメディアで脚色されているような報道を鵜呑みにされている方が不思議に多いな、と。むしろ中国人の国際的な目線を持っている方って、そういった情報に翻弄されていないようなイメージが僕はすごいありますよ。


  田村:そういった面も含めて、「思っていた中国」とのギャップで日本企業の進出があまり上手くいかない事って多いんでしょうね。


  朝倉:やはり、一昔前のイメージが強く残っているのかなと思います。中国に対して日本がすごかった、みたいな感覚がどうしてもあるのかなと。いまだに中国だとお金使わないで始められる、とか。それが片手間で進出してしまう感覚に繋がっているのかもしれませんね。


  田村:僕もそれよく言われます。「中国って物価安いんですよね」って。いやいや、上海なんて東京より高いですよ、って(笑)。


  朝倉:特に上海なんて世界中の一流のものや企業が進出している街ですからね。日本のものだけが来ているわけではないですから。だから、勿体ないなと思うんですけどね。絶対、日本は良いものを持っていると思うんですよ。ただそれが上手く表に出ていけてないだけ。もっときちんとローカライズしていってあげれば、受け入れてくれる人たちが居る器があるはずの国ですよ。


  田村:そうですね。「日本のもつ本当の良さ」が良いかたちで少しでも海外に出ていけるお手伝いが出来るよう、僕も取り組んでいきたいと思います。本日は有り難うございました。






対談を終えて


  今回、朝倉氏との対談を通して感じた事は、とにかく「ローカライズありきのブランディング」が重要であることの再認識でした。残念ながら「中国はビジネスが難しい国」という風潮が進むなかで、中国ビジネスに取り組む私たちはあらためて取り組みなおすべき事が多くあるように感じます。

  日本で中国ビジネスについて執筆されている記事は沢山ありますが、その中には机上の第三者的目線での理論的なものも多く見られます。もちろん、数値データや過去の情報も重要ではありますが、やはり海外進出というものはもっとライブリーなものであると感じました。これは中国に限った事ではないのでしょうが。

  後ろ向きな実例が多い中、今回の「ASAKURA」は貴重な成功例であるかと思います。その発言の中にはやはり「日々変わっていく状況に現場でどうアジャストさせていくか」の重要性を感じました。

  隣国といわれる中国ですが、外国であることに変わりはなく、その進出には「日本で培ったもの」を守る部分と、それを進出先にあわせて変化させる必要がある部分の見極めが肝要のようです。本来「売り」な部分であるはずの日本ブランディングが、かえって逆に作用しているのは勿体ない以外のなにものでもありませんから。

  最後に、今回ご取材に伺わせて頂きました朝倉禅氏率いる新店「ASAKURA Shanghai」ですが、場所は上海の象徴的なエリアである外灘に位置するペニンシュラホテル(上海半島酒店)。サロン空間だけでなく様々なクリエイターのアート作品などが並ぶスタイリッシュな空間となっていました。





  上海市中山东一路32号
  上海半岛酒店(上海ペニンシュラホテル)B1F


田村 篤久

田村 篤久
http://www.vairon.co.jp/

株式会社VAIRON 代表取締役
上海拜龙文化传媒有限公司(Shanghai VAIRON Culture & Media Co.,Ltd.) 総経理
大学入学直後より父の影響で広告代理店にてアルバイトをし、主に交通・屋外広告に触れる。また、かねてより興味のあった雑誌編集プロダクションに勤務。卒業後も約1年間勤務し、その間数冊の新雑誌立ち上げを通じ、紙媒体でのメディア企画を経験。その後芸能事務所にて、某有名アーティストのプロモーターとして、メディア露出、CMタイアップ、モバイル事業等に従事。2010年、日本のカルチャーはもっと海外に影響力があるはず、との確信からアジア進出を決意。現在は株式会社VAIRONおよび中国内資企業である上海拜龙文化传媒有限公司の両法人にて代表をつとめ、日本流のブランディング力と中国のローカライズ力を両立したマーケティング企業の実現のため、日本と中国ほぼ半々の生活を送る。アジア圏でのソーシャルメディア活用において、特にWeChat(微信)に関して中国内でもトップクラスの最新情報をもち、日本においての商用利用の第一人者である。

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