労働仲裁委員会の無力さと法治国家とはかけ離れた中国の現実


  労働仲裁委員会は各区の人力資源社会保障部の管轄になっており、同一の事務所にこの2つが同居しているのですが、企業と従業員との間で労働争議があり、仲裁を行う際、小生のように中国の弁護士資格を持っていない外国人であっても代理人が務まることをご存知ですか?

  小生も上海や北京で仲裁の代理人を引き受けることも多いのですが、企業から委任状とパスポートを提示すればそれでOKです。この労働仲裁の代理人を担当し、つくづく実感するのは、従業員の権利意識が強いということのみならず、労働仲裁委員会の無力さ、法治国家とはあまりにもかけ離れた中国の現実に直面することです。

  法治たる所以が本当に理解されているのか、法律の根拠以前に社会的常識という、人が社会で相互に共存していく上で最も重要な原理原則がおざなりになっているのではないか、ということです。

  労働仲裁委員会は、常識的に考えても明らかに矛盾を内包した従業員からの申し立てを、なぜ申請の段階で拒否しないのか?ということを直接問い正せば、「従業員の権利」という言葉で濁そうとします。従業員の権利を認めるのであれば、従業員の義務、或いは企業の権利はどうなるのか?という議論には至りません。中国が法治国家と言うのであれば、同時に正義とか公正、公平という価値の概念は持ち合わせているのか。 

  仲裁委員会の受理に関するプロセスも間違っています。不平不満があるのであれば、なぜ従業員は一義的に企業に対して主張しないのか、なぜあまりにも簡単に仲裁に持ち込むのか。また仲裁委員もなぜそのプロセスを確認し、瑕疵があれば従業員にそのようになぜ指導しないのか。

  今年1月1日から中国では、「企業労働紛争協議調停規定」が発効しています。労働仲裁に諮る前に、企業内で解決できることは解決しようとするものです。仲裁委員会にこの規定に拠る訴えの手続に瑕疵があることを指摘すると、「従業員の権利」と言います。では、法律が求めるところと現実とは乖離しているのではないか、法治とは一体何なのか。

  多くの日系企業は、努力を尽くして従業員を適所で活かそうとする姿勢を持っていることは、小生も多くの企業を見てきて感じています。処理の方法が法律から外れていれば仕方の無いことですが、法律に則って処理しているのに、それでもまだ従業員の肩を持つのかという多くの現実を目の当たりにしていますと、中国は法律、法治についてまだ学習が足らない、企業は強く、従業員は弱いという、いかにも社会主義的思想の、間違った規制観念に縛られているな、と感じて止まないのです。


清原 学

清原 学
http://ameblo.jp/preseed/

プレシード 上海基望斯企業管理諮詢有限公司 CEO
中国の人事労務事情、中国労働関連法の第一人者。学習院大学、東京工業大学大学院研究科修士課程。共同通信社、アメリカAT&Tにて勤務後、財団法人社会経済生産性本部にて組織人事コンサルティングに従事。上海・大連・無錫・ホーチミン・香港の駐在を経て、2004年プレシード設立。中国進出日系企業の組織構築、人事制度設計、労務アドバイザリーに携わる。企業の代理人として中国労働組合との交渉、労働仲裁・和解の法廷にも立つ。独立行政法人中小企業基盤整備機構国際化支援アドバイザー、ジェトロ上海センター人事労務相談契約、兵庫県中国ビジネスアドバイザー、神戸学院大学東アジア産業経済センターアドバイザー、京都外国語大学非常勤講師等を務める。上海在住12年。ユーモアを交え、中国の労働法制度からその社会的背景まで鋭く切り込む語り口は、多くの聴衆を惹きつける。中国と日本を往復し、各地自治体、商工会議所、経営者団体等での講演多数。

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