一筋縄ではいかない中国ロジスティック事情

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  F1GPはかつてF1サーカスとも言われていた。世界各地を転戦するその様子がサーカスに似ていたところから付けられたものだ。モータースポーツはそのグレードが上がれば上がるほど開催される範囲が広がる。例えば日本の茨城県にある”つくばサーキット”のみで開かれるレースシリーズは『つくば選手権』等の名称が付けられる。全日本選手権となると静岡の富士スピードウェイ、三重の鈴鹿サーキット、岡山の岡山国際サーキットや宮城のスポーツランドSUGOと結構、広範囲に転戦する。

  翻って中国はどうか?

  現在、中国には7つの公認サーキットが存在する。

  北から北京には北京金港国際サーキット(BGIC)、上海は上海国際サーキット(SIC)、そして上海市郊外の松江区に上海天馬サーキット(STC)、四川省成都にある成都国際サーキット(CDIC)、広東省に行くと広州の広州肇慶サーキット(GIC)、珠海市の珠海国際サーキット(ZIC)、そして一番新しいのが内蒙古にあるオルドス国際サーキット(OIC)とかなりの数の国際レーシングコースがある。

  この中で中国で一番最初に作られたのが珠海国際サーキット(以下、ZIC)、1996年の事だ。余談だがこのZIC、出来た年に今後のパートナーシップを求めてミーティングをした。その通された部屋に中国政府の建築許可証とパースが無造作に置いてあった。

  相手を待っている間、”チラッ”とその書類を見た。そこには”天津国際サーキット建設許可証”と書いてあった。今となっては幻だが、そんな計画も実際にあったと言う話し。

  さて、ところで中国の場合、外国からの中古車の流入を禁止している。それゆえにレーシングカーを持ち込む事に関しては事の他、難しいし、しかしある面はとても簡単である。

  それはどう言う事か?

  いくつかのサーキットは保区を兼ねている。ZICであり、肇慶国際サーキット(以下、GIC)である。昔は保税区ではなかった。しかし2年前だったかに突然、保税区になった。なぜか?モータースポーツと言う特権を傘に密輸が絶えなかった。オイル、ブレーキパッド…あらゆる部品が”レース使用”と言う名目の、ZICに運び込まれ、そこから中国全土へ密輸される。

  さすがに中国税関もその目に余る行為を見逃すはずが無く、ある日突然保税区になりそこからは随分、堅苦しい書類や規則に縛られるようになった。その密輸品の多くが日本製であった事は心苦しい限りであるし、いまだに北京の税関あたりから相当誤魔化した書類で輸入している企業もある。それは置いておいて…

  この保税区と言ういわゆる、国の機関に統治されてしまったサーキット、正直、不便この上ない。

  ひとつの例をあげる。

  今年、私のチームはランサーエポリューションを走らせる予定。マシンはもちろん日本から運び入れる。これに乗りたいと言うマカオのドライバーがいる。彼の参加するマカオ選手権は広州のGICで開催される(マカオは年に一回、公道コースでレースをするがパーマネントのサーキットが無い為、中国やマレーシアで選手権を開催する)。

  そして我々のチームはZICの選手権に参加する。

  普通で考えたら日本→香港→珠海→肇慶となりそうだが、全くの”不可能”!!!! 珠海→肇慶がどうにもならず絶望的に無理。 なぜか? 保税区から保税区には移せないのだ。 こうなると複雑怪奇なルートを作成する事になる。

  まずはスケジュール。

3月珠海(ZIC)
4月広州(GIC)
5月広州(GIC)
6月珠海(ZIC)
と、する。

  2月に日本→香港まで持ってくる。ここからZIC専用業者なるものにバトンタッチしZICへ入れる。もちろんカルネ(一時輸入)での持ち込み。そして3月のレースが終わったら一旦、香港かマカオへ出す。3月末にマカオ→肇慶へ行くマカオ選手権専用コンテナが出るので、予定としては何とかそこへ押し込む。そして4-5月と肇慶でレースと保管。この期間、毎日15元ずつ税関に払うという冗談みたいな状況下に置かれる。

  このマカオ選手権集団輸送の帰り便は7月16日だと言う。それは6月のZICに参加できない。従って5月のレースが終わったら単独便で一旦、香港かマカオに戻す。
そしてまたZIC専用業者を使って6月のZICのレースに間に合うように中国へと入れる。

  膨大な無駄としか思えない手順と専用業者と言うどう考えても政府と組んでいるとしか思えない物流会社を使わざるを得ない状況下に常に置かれているのが中国モータースポーツ界の実情なのだ。ちなみに懇意にしている物流会社に、指定業者なる会社の見積もりを見せたら『この仕事くれ!』と叫んだ。常識外の金額だという。

  その昔、日本において徳川時代、箱根と新居の関所、『入り鉄砲に出女』と厳しくチェックしたと学んだが、まぁ、そんなものなんだと思う。

  最近、こちらのモータースポーツ界の元気が良いせいか、日本から参加を希望する人達が随分と増えた。或いはあからさまに『我々の方が技術があり、優れているからマシンを持っていって参加したい』と連絡してくる人もいる。或いはもの凄く軽く考えていて、『そっち(中国)で物販をしたいから、輸入できるように協力してくれ』と言う要請も年がら年中来る。

  しかし答えはいつも同じ。

「どうやって入れる(輸入する)の?」
「どうして10年近く苦労してやっと得た輸入方法をただで教えなければならないの?」
「仕事だったらやるよ」

  そして決まってその言葉に対する返答は無く、その後、レースに参加もしてこない。

  その代わり『香港から密輸できる』とか『ベトナムから雲南経由で密輸が可能』等など。問い合わせがあった人達の名前でおかしな話しばかりが聞こえてくる。

  今、モータースポーツに積極的に参加しているある俳優さんをマネジメントしている会社から接触があった。

  『自分達は何も分からないので、手伝って頂けませんか?』
  さすが順序がしっかりしている。すぐに『もちろんです』と返事をした。

  中国モータースポーツに関わってひとつ良かったと思うのは、よほどの軍事兵器に関わるものでなければ”なんでも輸入できる”知識が付いた。

  先日も某大手自動車メーカーの方から『日本で作った試作車が入れられない』と言う話しを聞いたが、答えはひとつ。「大丈夫、入れられますよ」

  キチンと構造と手順を理解して、順序良く取り組めばなんら難しくはない。それを自分達の常識を押し付けて拒否される。すると『中国はヤバイ』『理解できない』と拒絶反応を示される。僕からしたら、他国で自分達のルールを押し付けようとする方がよっぽど理解できないのだが…

澤野 勝治

澤野 勝治
http://www.ks-game.biz/

1996年中国初のレーシングコース 広東省珠海国際サーキットのオープニングを 皮切りに中国モータースポーツに深く関わる。08年より上海に移転し、台湾資本の企業でビジネスプラ ンニングを担当。北京VW、一汽豊田のプロモーションの企画立案を行う。昨年 度、結婚を機にマカオへ移住。マカオ人の妻と共に澤野商務規劃有限公司【ks-game】、金狼賽車有限公司【Gold Wolf Racing Ltd.】を設立。 モータースポーツを中心に、マーケットリサーチ、ビジネスプランニング、セールス・プロモーションを主な事業の柱として展開。モー タースポーツ以外ではマカオ大学や政府・行政機関の通訳・翻訳や現地弁護士事務所の日系企業向けの作業を担当。尚美音楽学院 電子オルガン科中退と言う変りダネ。

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