- 中国ECはこれから。 後編
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前編では日本の高度成長期を振り返り、中国はそれとよく似た経済発展モデルを採っているのでははないか、という仮説をたてました。
その仮説を前提としてですが、現在の中国国内消費の拡大に見合う生産を今後も続ければ、自国内だけで賃上げと購買力の増大が続き、ちょうど少し前の日本に起ったような消費活動がこれから起こると予想されます。なお、日本と異なる点としては人口も国土も比較にならないほど大きいため、次のような現象が起こると考えられます。
・工業化も消費の活性化も一斉には起こらず、沿岸部から内陸部へ段階的に進む。
・よって、日本の10倍の人口を抱えるとはいえ同時期に全土で需要の爆発が起こるわけではない
・経済の変化は早まっているが、国土の広さから過去の日本と同程度、10~20年程度は続く可能性がある
ところで、ECの話題に戻ります。オンラインで物を買う利点とは何でしょうか。私は次のような点が挙がると考えています。
・お店の営業時間を気にせずいつでも買い物ができる
・お店に行かなくても自宅まで届けてくれる
・多数のお店にまたがって客観的に比較検討できる
・自分の行動範囲では手に入りにくい商品でも取り寄せができる
しかし、上記の利点は消費者側にそれを利便性として感じる素地がなければ実感してもらえません。
具体的には次のような状態です。
・お店の営業時間を気にしなくてはいけないほど忙しい(他にやることがある)
・お店にわざわざ行くのは大変、あるいは面倒だと思う(余裕がある。モノを買うことに逼迫していない)
・様々なお店で比較したほうが賢い買い物ができると理解している(買い物慣れしている)
・自分の行動範囲の外に欲しいものがある(好奇心や購買意欲を持って情報収集ができる)
このような消費者は、必要な物品を獲得ことにより生活の向上を目指す、という状態を通りすぎて、消費は娯楽のひとつ、あるいは生活のオプションとして楽しめる状態にならないと生まれないように思います。
私は世代が違うため、高度成長期時代の消費者心理というのは本で読んだり目上の方に聞くしかないのですが、その当時働き盛りだった日本人の多くは消費そのものを楽しむというよりは、必要に迫られるからモノを買う、という人々だったような印象を受けています。
消費が娯楽になるのは「必要なものがおおよそ揃って、最低限必要なものをを買うためにあくせくしないでよくなった」、と当人たちが自覚してからではないでしょうか。
実際に、下の図は日本の高度成長期から最近までの主要な耐久消費財の普及率と、家計の消費支出のグラフを重ねたものです。高度成長期の真っただ中よりも、高度成長が落ち着いた1975-77年以降の方が家計の消費が著しく伸びていることがわかります。
もしかしたら、1975-77年の日本では、例えばこんな『発見』をする人が生まれていたのではないでしょうか。
勤労が美徳でこつこつと働き、派手に散財するお金持ちをやっかみ半分で見ていたような人たちが、一生懸命働いてお金をためた結果、TVの中だけで見ていたような便利な生活の道具…たとえば洗濯機や掃除機やエアコンを手に入れることができた時。
「自分も頑張ればあこがれの生活が手に入るのだ。やればできるのだ。」
「TVドラマや雑誌の中の世界は夢物語ではなく、自分だってお金を出せば手に入るのかもしれない。」…
このような心理を持った消費者が増えれば、消費は別のステージに入ります。
さて、下の図は現在の中国における家電などの普及率なのですが、これを見ると都市部で家電が一通りそろったのは2007年、ですので過去の日本人と同じ体験をするならば、都市部で娯楽としての消費心理が生まれるのはおそらく2009年ごろから、農村部は「家電下郷」といった補助金制度もありますがまだまだこれから、ということが推測されます。

また、もちろんECを利用するためにはPCや携帯などの情報端末が普及していること、そしてそのリテラシーや、通信回線の普及、個人と信用取引ができるだけのネットワーク上の治安などが不可欠な要素としてあります。何より、可処分所得の多い人にとって上記のような環境が整っていなくてはいけません。
次の図はCNNICによる、中国における年代別のインターネット人口ですが、日本が約10年前(1999年)に8割以上を20~30代が占めていた状況と異なり、現在20代以下がインターネット利用者の6割以上を占めています。そのため4億人近いと言われる中国のオンラインユーザーのうち、纏まった消費活動ができるのはまだ一部であると見ています。
(出典:CNNIC「第25次中国互換網発展状況統計報告」 2010年1月)
実際にインターネットユーザーの所得別割合は2009年現在、月収3000元(約3.8万円)以下が85%を占めており、これは、中国の中産階級である月収6,000元(約7.5万円)程度の層が全国平均で23%存在するという統計情報とかなり乖離があります。
このようなオンラインユーザーの偏りの結果、ゲームやコンテンツの消費などによる小口の消費がいまだオンライン取引の大多数を占めるのではないでしょうか。ただし見方を変えると、インターネットでモノを買うことに慣れたこれらの若年層が十分な所得を得はじめる5年後・10年後のECに期待が持てます。
つまり私は、日本のようにECでモノが売れ出す消費者側の素地というのは、中国の大都市においてようやく整ってきており、花開くのはまだまだこれから、という見方をしています。また、次のように考えます。
・都市人口は北京と上海を合わせても3,000万人程度、他に1000万人都市が数か所ある状況。日本の通販事業者がターゲットとして認識しているような、可処分所得が十分にあり、消費を積極的に楽しむ人口というのは、都市部で合計してまだ数千万人程度と予想される。また、中間層といえど日本との平均所得の開きは大きく、提供価格を下げるためにはサービスの現地化などによるコストダウンが必要。
・「中国全土に売る」というビジネスモデルを採っても実際に反響があるのはまだまだ都市のみであると予想できるため、「立地上の商圏にかかわらず販売ができる」という通販のメリットが生かしにくい状況にある。また、もちろん物流網もまだ課題が多いため、”取引を大都市部に絞ったEC”などの工夫が必要になる。
・ユーザー層の状況からECの戦略としては早期回収を目指すのではなく、5年後・10年後のECの最盛期のための布石をする、という考えの方がよいと思われる。たとえば大都市に実店舗を設け当面の主力は実店舗における販売を主力とする。もしくはカタログやテレビ等での通販を主力とする。ECサイトも同時に開設し、実店舗からオンラインの商取引に誘導、消費意欲が既に活性化している層に対して、オンライン取引の信用を積み重ねていく方法が考えられる。
最後に中国政府の法規制があります。相変わらず情報通信分野における外資への法的規制は強く、参入にはかなりの障壁があります。(規制に関してはこちらの記事をご覧ください。)ただ、その規制は諸外国の経済をよく研究した結果ではないかと思います。上記のような国内で利益を再生産するサイクルにおいて、私がもしも中国の国益を第一に考える立場であれば、それをなるべく自国内で循環させたいと考えるはずです。
通販に絞って現地へのお金の落ち方を比較すると以下のようになります。
中国内資本企業による通販 > 外資が入った中国内企業による通販 > 海外からの通販
ECの場合、直販には劣るものまだ物流等で中国内にお金が落ちますが、海外からのEC、中でもオンラインのコンテンツ販売に至っては国内のネットワーク資源が消費されるだけで国内の市場は殆ど潤いません。よって情報通信分野、特に金銭を伴う取引における規制は諸国の政府から相当の圧力がない限り、なかなか緩和されないだろうと予想されます。
このため、いずれにしても現地企業との協力体制は不可欠です。
活性化しつつも色々と難しい要素の多い現在の中国ですが、消費が活性化しても現在の日本のように国内企業の提供するモノやサービスが充実するまで、しばらく時間がかかると考えられます。貪欲な中国国内市場が生まれてから成熟するまでの間が、すでにそういった経緯を経て我儘で要求水準の高い消費者を相手にし続けてきた日本企業が、中国で活躍できる好機であることは確かです。
最後に、長くなりましたので要点をまとめます。
1.中国の経済成長プロセスは日本の高度成長期の歴史と類似点が多い。これを比較することで中期的な中国経済およびECの予測を試みる。
2.(以下1を前提に)中国の都市部は耐久消費財の普及により、2010年の今まさに国内消費サイクルに入りつつあると考えられる。農村・内陸部の多くはまだこれからである。
3.ただし、インターネット人口は所得の低い10代・20代が中心であり、ECで積極的に消費をするには若すぎる。しかし、労働人口に転化する5-10年後にはリテラシーの高いオンライン消費者になる可能性がある。
4.ECに関連する法規制については、当面戦略的に緩和されない可能性が高い。このため現地化が不可欠になる。
5.活性化し貪欲になる消費者に応える、高品質なモノやサービスを提供できるポテンシャルが日本企業には既にある。そのような消費者との付き合いが「これから始まる」中国企業の多くにはまだない。
中国は難しいですが興味深い市場です。引き続き中国ECと、現地での日本企業の活躍に注目していきたいと思います。
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