中国ECはこれから。 前編

Tweet!retweet


私はこの記事を書いている2010年現在「中国向けECをやりたいのだが、どうか」と訊かれた際には「短期的な結果を求めるなら、中国は避けるべき」と回答することにしています。ECは通信、物流、決済などのインフラが整い、ECの利点を活用できる消費者側の素地があって初めて役に立つ販売手法です。前述のようなインフラが不完全で経済発展の途上にある現在の中国市場では、欠けているインフラを自ら補うだけの資金力・実行力、そして消費者とじっくり向き合う持続する意思が伴わないと困難であるとみています。それを備えることができるのは人的にも資金的にも潤沢な大企業か、一部の幸運な企業だけです。

ただし、中国は急速に変化しており、中長期的にはポテンシャルの高い市場ということは間違いないと考えます。

すこしECから視点をずらします。私は中国の経済発展は日本のかつての姿とよく似ているように感じています。1950年代から1970年代の十数年間、経済成長率が年平均10パーセントを越えた高度成長期と呼ばれた時代、日本は今の中国と同じく安価な労働力による加工と海外向け輸出によって付加価値を生み出し飛躍的な経済成長を遂げました。
加工貿易モデルに便利な太平洋側の港湾を中心に工業地帯が生まれ、工業化と都市化が急速に進展、人手不足により賃金は年々増加、工業団地には地方から職を求める人口が流入し、そういった人たちが「金の卵」と呼ばれていた時代もあったと聞きます。
工業化の進んだ地方都市は人口が増え、雇用の需給バランスから所得水準が上がって活気のある大都市が生まれました。

このような結果、2つの現象が起きました。

1つ目は旺盛な消費意欲を持つ国内市場の出現。それまでは日本で作ったものを海外で消費するモデルが主要でしたが、自分たちで消費しさらに付加価値を生み出すサイクルが生まれました。「一億総中流」という言葉が出現し、国内誰もが競い合うように便利で快適な生活を求めて消費活動を行いました。結果、日本市場をターゲットとする企業が大きく成長しました。

2つ目が生産施設の海外移転。賃金上昇の結果、日本国内で「生産」された高価格製品では競争力が不十分になり、より安価な労働力を求めて海外で工場が作られるようになりました。しかし1つ目の旺盛で要求水準の高い日本市場へ供給を行うために開発・マーケティング・販売拠点は国内に残りました。この結果、輸入によって国内の需要に応えるビジネスモデルが一般化しました。

さて、以上が「日本が」過去にたどってきた道なのですが、同様の現象が現在中国で起きています。

1つ目は同様の中国国内市場の出現。下の図はWTOによる中国の輸出額の推移、IMFによる中国のGDPの推移、最後にCEICによる中国国内の自動車販売額・小売取引額の推移です。





(下2図の出典:フコク生命マンスリーエコノミックレポート「国内外経済の動向」)

中国の対外輸出は2008年を境に伸び悩んでいることがわかります。しかしそれにもかかわらずGDPの伸びは続いています。従来対外輸出に依存していたにもかかわらず下げ止まっている理由は、国内の自動車販売額の推移や小売取引額の推移から、活発化した国内消費が下支えしていることが推測されます。

なお、現在の中国の経済成長をバブルと見る動きもありますが、バブルとは評価の増加に見合った価値が生まれていないにもかかわらず、いたずらに値がつり上がることによって起こります。私は現在の中国で生み出される価値の多くは、前述の通り過去の日本と同じく加工貿易によって創りだされた実体のある付加価値だと考えています。この考えが正しければ、中国内の消費の活発化は一時的なものではなく、日本の高度成長期のように今後も継続して伸びていくことが予想されます。

実際に中国の工業化と都市化は急速に進展し、沿海地域は人手不足が顕在化しています。ただし、日本と異なる点は、中国では人口の移動規制があるため人が沿岸部へどっと押し寄せるのではなく工場の内陸移動が進んでいます。地方都市にある工業団地も、沿海地域からの移動も加わって人口が増加、賃金が年々上昇する方向にあるようです。工業化のすすんだ地方都市は人口も増え、所得水準も上がって活気のある大都市に成長しつつあります。

このように、いつか日本がたどってきた道と似た道を中国が歩むのであれば、日本人の過去の傾向から中国人の今後の消費傾向、ひいてはECの傾向を考えることはできないでしょうか。

【後編に続きます】

百瀬 道子

百瀬 道子
http://www.multilingualcart.com/

WIPジャパン株式会社 シニアコンサルタント

大学卒業後、印刷会社、出版社を経て独立。Webサイトの受託開発をしながら2006年に2言語対応ネットショップASP「バイリンガルカート」、2007年に多言語対応ネットショップASP「マルチリンガルカート」をリリース。2008年に同事業をWIPジャパンに譲渡。現在もマルチリンガルカートの開発・運営を行う。国境を超えて取引ができるサービスが、世の中にどのような影響を与えられるかを探求中。「中国のEC市場はポテンシャルは大きいが難しい市場です。中国でのECの可能性や課題についてお話しします。」
※なお、このコラムは個人的見解であり、所属組織のものではありません。

特集のコラムニスト 次のコラムニストもチェックしてみて下さい

ホットワード:春節(旧正月) 微博 社会保険 タオバオ

現在の記事掲載数:2,357件  <メルマガ登録>

新着記事
アクセス上位・人気記事
PR
  • RSS
  • Twitter
  • 寄稿者一覧
  • 寄稿者の著書一覧
  • セミナー